花農家(H20年就農/倉敷市)
高尾 英克 さん
「食える作物」を徹底的に調べ、スイートピー農家へ転身
エンジニア、デザイナーとして働いていた高尾さんは、身体を壊したことをきっかけに就農を決意。徹底的にリサーチし、もっとも効率的に収入を得られるスイートピー農家に転身しました。理系出身者ならではのユニークな視点から産地・倉敷でのスイートピー栽培についてお話を伺いました。
農家へ転身。スイートピーを選んだわけ
エンジニア、デザイナーとして働いていた高尾さんが農業に興味をもちはじめたきっかけは、パソコン仕事がたたり目を悪くしてしまったことでした。「長く続けられる仕事をしたいと思いました」と高尾さんが言うように、農業は80歳で現役の人もたくさんいる。仕事で体調を崩してしまった高尾さんは、自然とふれあい長く続けられる農業を仕事にするため、就農について調べはじめます。
「食えないといけない」と思った高尾さんは、稼げる作物を徹底的に調べます。都道府県が公開している作物ごとの検証データを調べた結果、高尾さんが選んだのは、作付面積に対する収入がよく、初期費用も少なくて済むスイートピー。しっかりとしたリサーチと計画は、就農への不安を少なくし、その後の農業経営にも大きく影響します。
スイートピーの産地・倉敷市船穂町で就農
市町村単位で比較すると、倉敷は全国3位のスイートピーの産地。宮崎など九州にも産地があるが、災害が少なく温暖な瀬戸内海式気候で、冬の間の日照が多い倉敷市船穂町を就農地として選んだ高尾さんは、岡山県の新規就農研修制度を利用して研修を受けました。
「1年目は船穂町のスイートピー農家さんのもとで技術を学び、2年目は研修ほ場で全ての作業を自分でしました。しっかりと技術も学べる手厚い制度でした」。2年間の研修の間に技術だけではなく地域の人との信頼関係も築き、研修終了後に自分が経営する農地も探すことができました。
さらに、産地である船穂町には、気候や研修制度のほかに販売についても大きなメリットがあります。できたスイートピーはJAを通して全量を市場出荷し、産地ブランドとして販売されます。そのため生産者は販路については心配せずに、栽培に集中することができます。新規就農者の受け入れから研修、販売まで産地である船穂町では、スイートピー生産を一貫してサポートする体制ができているのです。
そんな産地ならではの手厚いサポート受け、いよいよ就農を迎えた高尾さんですが、いきなり苦境に立たされます。最初の年は花が半分しか咲かなかったのです。「もともと山を崩した土地で農地ではなかったため、土に癖がありうまく咲きませんでした」。綿密なリサーチと手厚い支援制度で、万全の体制で臨んだかに思えた就農初年度でしたが、自然相手は簡単にはいきませんでした。
「でも、それがあったから右肩上がりで成長できた」という高尾さん。前向きな気持ちで、自分の得意な理系の知識を活かし、肥料成分を化学的に細かく計算。必要な肥料分を液肥として直接供給する栽培に取り組み、土の問題を解決し、2年目以降は収穫量を順調に伸ばしていきました。
農業は、従業員のひとりが自然である工業
初年度は不作でありつつも、順調に生産を続ける高尾さん、スイートピー栽培は自分にあっていたと感じているといいます。農業も工業も一定の品質のものをたくさん作ることが求められるのは同じ、ハウスで栽培するスイートピーは、施設のメンテナンスや機材の修理も含めて実は工業的。肥料も化学的に検証できるので、理系でのキャリアがとてもいきているのです。
「農業と工業で何が違うかと言えば、農業は社員のひとりが光とか風だったり、来るか来ないかもわからない気まぐれな社員ってことなんじゃないかと思います」と高尾さんは笑います。その気まぐれな社員との付き合い方は、先輩農家の方が教えてくれました。
初年度にうまく花が咲かず落ち込んでいた高尾さんは、「できることを全部やって、それでうまくできなかったら仕方がない。自然相手なんだからなるようにしかならないよ」と言われ、それからは多少不作であっても「なんとかなる」と思えるようになったといいます。
就農する上で、リサーチや計画はとても大切です。けれど、それだけですべてがうまくいくわけではありません。しっかりと技術を身につけ努力する。それでも相手は自然。やり切ってもうまくいかないときは、大らかな気持ちで受け止めることが、農業を長く営む秘訣なのかもしれません。
(TEXT:ココホレジャパン)
就農までのポイント
・ 倉敷市(岡山県)を就農地に選んだ理由
やりたい作目を徹底的にリサーチした結果、岡山県のスイートピーが適していると判断した。研修生を受け入れているのが倉敷市で、研修体制がしっかりしていたため倉敷市を選んだ。
また、岡山県は日照時間が長く、気象災害の影響も少ない等施設栽培に適していることや、新幹線や空港、高速道といった交通網が発達しており、都市圏へのアクセスが良いことも決め手の一つとなった。
・ 農地の確保について
研修中に農地を探し、受入指導農家や研修を受け入れてくれた農業公社に聞いて農地を紹介してもらった。(現在の経営面積 20a)
・ 資金の確保について
スイートピー栽培に必要なパイプハウス、加温機、養液土耕システム等の施設関係はリースしている。
・ 技術の習得について
研修中は1年目は受入指導農家のもとで研修、2年目は研修ほ場にて全ての作業を自分の判断で行った。この仕組みの中で基礎的な技術の習得から自分で判断する経験を得ることができた。
・ 住居の確保について
受入指導農家の紹介で船穂町内の一軒家を借りた。
・ 相談相手は
最初は県の担当者に相談し、具体的な地域や作目が決まってからは農業普及指導センターやJAに相談することが多かった。