先輩就農者体験談

もも農家(H27年就農/総社市)
三谷 直司 さん

いい桃をつくる。高い価値で売る農家を目指して

総社市で桃農家を営む三谷直司さんは岡山県真庭市出身ですが、大学進学とともに九州へ引越し、就職や結婚も長崎県。しかし「農業をやりたい」という夢を叶えるため一念発起して岡山県へ2012年にUターン。未経験から農家として独り立ちを果たした物語には、素人が就農するための大切なヒントがありました。

夢と現実の狭間で模索。
岡山の積極的な支援が後押しに。

▲1ヘクタールのもも畑を夫婦で営む三谷さん

もともと農業に興味があった三谷さん。30歳半ばに差し掛かるあたりから興味から本気の夢へとシフト。しかしサラリーマンとして長年勤めていた三谷さんは、夢を膨らませながらも「農家で食べていくことは難しいのだろう」というイメージがあったといいます。

そんなとき、偶然、岡山県のホームページで就農オリエンテーション(産地見学会)の募集を見つけて参加。その場で農家の方たちと交流したことで、漠然とした不安が解消されたといいます。

「私自身、果物が好きで農家になるならば果樹農家がいいなぁと思い、桃やぶどうが有名な岡山県で農業をやろうと思いました」。そして三谷さんは桃を選びます。「農家の方に色々お話を伺って、桃のほうが初期投資を低く抑えられることがわかってそこが決め手になりました。
資金を借りてまで、という踏ん切りはつかなかった、と三谷さんは言います。「農家をやりたい」という夢と「家族を養う」という現実の間で、実現可能な道を模索します。

長らく暮らした長崎県での就農も考えましたが、自らの出身地である岡山県での就農を決意した三谷さん。その理由は「積極性」だったそう。
「就農に関するオリエンテーションをはじめ、活発に新規就農者を受け入れている印象を受けました。また私自身が岡山県出身なので、親戚や家族も居て、困ったときに手助けもしてくれることは大きかったと思います」

手厚い就農支援と地縁の後押しによって、三谷さんは自らの夢を叶えるため、生まれ故郷へUターンを果たしたのです。

プロとして農業をするために総社で学んだこと

▲総社は米どころ。岡山県南部らしい、温暖な気候。

就農するにあたり、長崎県から岡山県へ、妻と子ども2人と移住した三谷さん。がらりと環境が変わって戸惑うことが多いかと思いきやまちの規模は前に住んでいたところと変わらなかったそう。
「むしろ総社市は利便性が高い」と三谷さん。総社市は美しい自然が残っていながら、都市部へのアクセスも近い「ちょうどいい田舎」。不慣れな土地では暮らすだけでしんどい思いをして、農業どころではなくなるパターンも多いそうだが、三谷さんはすんなりとこの土地の暮らしに馴染めたようです。

就農地を総社市に決めたのは、就農希望者を受け入れ、農業技術を指導する受入指導農家との出会いが大きいと三谷さん。受入指導農家自身も新規就農をするために兵庫県から総社に移住した先輩でした。
「研修は一言でいえば、楽しかった。自分の知らなかったことを教えてもらって。自分一人でやっていくための作業を覚えていくのですが、最初は本当に桃の実ができるのだろうかってことが不安でした」

 苦労したことを伺うと「大変なことはなかった」と三谷さん。
「最初に予想していた農業の厳しさのラインが高く設定していたからかもしれないです。職人気質な作業が多く、さらに感覚的なものも必要な場面もあります。そういうところに憧れていた部分もありました」
元々すごくやりたかったことは、実際にやってみても理想通りの仕事。やるべきことが自分の気持ちに合った。それはとても幸せなことです。
研修中に学んだことで、印象に残ったことは「生産性」と「効率性」だといいます。
「桃をつくるとき、どうやったら良いものをつくれるか、ということを普通、メインに考えますが、農業で大切なのはそれだけじゃないってこと知りました」
いかに素早く、効率よく、数をこなすか。数を出さなければ、収入にならない。しっかり出荷できる桃をつくる生産技術、出荷技術、スピードを教わったといいます。

「盲点というか、そこが大事だと自分で気づけていなかったので、考えながら作物をつくることが大事なんですね」
そこをこだわることが農家で食べていくということ。趣味の農業と一線を画するところでした。

ひととひととのつながりを大切にして農業を営む

▲三谷さんの桃畑。1ヘクタールの広さで夫婦が桃をつくる。

2年間の新規就農研修を経て、三谷さんは2015年に独立を果たします。総社に自分のもも畑を持ち、現在1ヘクタールの規模で栽培を行っています。農地は受入指導農家の方や研修の受入主体の農業公社が紹介してくれたもの。三谷さんだからこそ集まった農地だと、地域のひとは口を揃えます。三谷さんの姿を2年間見守ってきた人々の、彼にこの産地を担ってほしいという期待がうかがえます。

「自分の裁量で仕事をして、その出来栄えで食べていけるのはやりがいがありますね。好きなように働いているので、休みの日でも働きたくって、子どもと過ごす時間はサラリーマン時代とそんなに変わらないです(笑)」
しかし、楽しく仕事をしている親の背中を子どもはかならず見て、感じるものがあるに違いありません。

地域に根を張り、おいしい桃をつくる三谷さんに、今後の展望を伺うと「仲間を増やしたい。若い人を増やしたい」と即答。「みんなでたくさん桃つくって、産地を盛りあげていきたいです」。
総社は現在、20代?40代の若き農業者が10人以上いるそう。高齢化が叫ばれる第一産業とは思えないほど若手が増えています。「新規就農」というチャンスによって総社のももづくりは次世代につながる持続可能な産業に。三谷さんも「良いものをつくりたい。良い価値で売りたい」というストイックな桃づくりで、一大産地を担う人材になりつつあるようです。

(TEXT:ココホレジャパン)

就農までのポイント

・ 総社市(岡山県)を就農地に選んだ理由
もともと農業に興味があり、ぶどうや桃といった果樹での就農を考えていた。ホームページで岡山県で開催している産地見学会の情報を知り参加。そこで、受入指導農家の方に会い、その人柄や桃で生計を立てている様子を知り総社市での就農を決意した。

・ 農地の確保について
産地で新規就農研修生用の農地を確保しており、それに加えて受入指導農家の方や市の農業公社が農地情報を提供してくれた。現在は1haの規模で経営している。

・ 資金の確保について
自己資金を中心に、資金の借入はしていない。

・ 技術の習得について
研修中に受入指導農家のもとで栽培技術を習得。就農後は地域の桃生産者に質問したり、農業普及指導センターの担当から指導を受けたりしながら栽培技術の習得に努めている。

・ 住居の確保について
地元の不動産屋で探し、農地から10分程度の一軒家を借りている。

・ 相談相手は
就農を希望する地域が決まってからは、受入指導農家、農業公社や農業普及指導センターに相談しながら準備を進めていった。

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